窯元のご紹介  Vol.3 青森県 南部名久井焼

昭和51年、青森県三戸郡南部町(さんのへぐん なんぶちょう)で窯元の父である砂庭 大作(すなば だいさく)さんが開いた南部名久井焼(なんぶなくいやき)について、現在の窯元である砂庭 大門(すなば だいもん)さんにお話を伺いました。

名久井焼を受け継ぐ

窯元である砂庭 大門さん。後ろの絵画は、画家でもあった
父の砂庭 大作さんが描いた自画像。

昭和51年に始まり、
父の後を継いだ窯元。

南部名久井焼を始めたきっかけを教えてください。

大門さん南部名久井焼は昭和51年に、私の父である砂庭 大作(すなば だいさく)が窯開きをした、比較的歴史の浅い焼き物です。父はもともと画家でしたが、当時は民芸運動がブームだったことと、父の両親(私にとってのおじいちゃん、おばあちゃん)が子どもの頃に粘土で遊んでいたという話を父が思い出し、現在の登り窯の下にある沢から粘土を採り、町の公民館にある窯を借りて焼いてみたら陶器ができたので「これはいける!」と思い、始めたのがきっかけです。

上薬を一部のみにかけ、素焼きの部分が見える、独自性の高い陶器。

どのような経緯で後を継いだのですか?

窯開き以降、父が南部名久井焼の初代として陶器を作り続けていたのですが、私が中学3年生になり、絵の世界に進もうかと進路に悩んでいたとき、父と繋がりのあった岡山の備前焼の窯元さんを紹介され、修業を決意しました。結局8年間修業したのですが、その過程で「人と違った人生を歩むのも、いいかもしれない。」と思うようになり、父の後を継ぎました。

陶器のベースとなる粘土は、休耕田から入手。使えるように
なるまで3年間寝かせる。

陶器に使う土などの素材は、
この近辺で採れるのですか?

父が青森で採れる素材にこだわっていたので、私もそれを守り続けています。土は地元の粘土を使っており、工事現場などで地盤を掘削しているのを見つけると、分けてもらいテストをして、合格ならば近くの休耕田を探して交渉します。水を張った田んぼの土は粘土ですが、稲ごとは買えないので休耕田を掘らせてもらいます。それでも、土の栄養が元通りになるのに2年はかかるので相応のお金を払います。
その後、陶芸に使える粘土になるまで3年ほど寝かせます。

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プロジェクトへの参加

修復された現在の登り窯。被災した窯のレンガを再利用して仲間の手
により再建された。

被災の状況と、その後に受けた支援。

震災時の被災状況は、
どのようなものだったのですか?

大門さん3.11の大地震の後、敷地内にある登り窯を見に行ったら、これまでとは様子が違っていました。よく観察してみると窯全体が傾いており、壁にも大きくヒビが入って床も裂けている。さらに、登り窯の土台とその上に載っているレンガが10センチ程度ズレていました。他の窯元さんと比べるとパッと見は被害が無いように見えるのですが、構造的に登り窯は完全に使えなくなっていました。

横から見た登り窯のアーチ部分。修復により、長さは以前の
半分になってしまったという。

登り窯の修復はどのようにして行われたのですか?

AGFさんから支援のお話をいただき、「登り窯を直すか、別の窯を作り支援するか?」と聞かれて、父の作った思い出のある登り窯の修復を選択しました。
実際の修復作業は、私と地元の窯元の仲間たちで行ったのですが、仲間たちは登り窯を持っておらず、また、私自身も窯を造った経験がなかったので、すべてが手探りの状態。4日で完成する予定が8日もかかり、約2,000個のレンガを再利用したうえで、窯の長さも以前の半分になりました。
しかし、得たものもあります。手伝ってくれた仲間たちは全員が切磋琢磨するライバルですが、修復作業を通してその垣根を超えられたと感じています。今では技術の提携などもするようになり、陶芸家同士の絆が一層深まりました。

登り窯は神聖な場所として、紙垂(しで)が飾られており、神棚も
祀られている。

修復した登り窯は、
どのように使っているのですか?

普段は電気や灯油で熱する窯を使っており、登り窯は年に一回程度しか火を入れないのですが、それには理由があります。
まず焼くための薪ですが、南部赤松という松を使います。東北の土壌で育つ油分の少ない松で、弱い火力でもじっくり焼けるのが特徴です。それを伐採後、乾燥させて薪として使うには3年かかります。さらに登り窯の場合、15分に一回薪をくべながら、焼き上がりまで一週間程度かかりますし、消費する薪は1.5トンにものぼります。
薪のコストや労力を考えると、登り窯を頻繁に使うことは難しいのですが、登り窯だからこそ出る味わいもあるので登り窯は使い続けていきたいと思っています。

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名久井焼ができるまで

黄色味がかり、ザラッとした感触が出ている陶器。
この風合いが名久井焼の特徴。

全て青森の素材を使う、それが名久井焼。

名久井焼の特徴を教えてください。

大門さん本焼きをした後の黄色味がかった色とザラッとした感触が名久井焼の特徴のひとつです。また、使う素材も地元の粘土や地元の薪にこだわっています。
南部赤松という薪の成分、焼くときの温度帯、そして鉄分が少なく砂が混じった粘土といった条件が全て加味されて完成する陶器、それが名久井焼です。さらに、近場の田んぼの土は焼き物に向いていないものも多いので、周辺の八戸市、下田町、三戸町など、三八上北(さんぱちかみきた)と呼ばれる近隣エリアに絞って粘土を探しています。

名久井焼の土はしっかり乾燥させないとヒビが入りやすいので、
乾燥には特に時間をかける。

名久井焼ができるまでの工程を教えてください。

3年寝かせた土を運び出し、まずは成型をして取っ手などを付けます。次に乾燥させるのですが、私は乾燥に時間をかけます。これは名久井焼の粘土の特徴なのですが、しっかり乾燥をさせないと焼いたときにすぐにヒビが入ってしまうので、季節にもよりますが約2週間から1か月程度かけ、白くなるまで乾燥させます。その後、摂氏800度で素焼きをし、上薬をかけて着色したら本焼きとなります。

ピンクと緑のコーヒーカップ。使っている上薬は同じだが、焼き方に
より焼き上がりの色が異なる。

乾燥のほかに、どんな点に苦労していますか?

上薬である釉薬(ゆうやく)は自分で配合していますが、例えばピンクの陶器を作る場合は「辰砂(しんしゃ)」という炭酸銅を使います。銅は放置しておくと酸化して緑になるのですが、空気を入れて窯で焼くとその緑色に、窯の中を過密状態にして炎をかき混ぜるように焼くとピンクになります。また、焼く温度の違いや空気の混ぜ方、その日の天候、窯の密度が違うと緑色を出そうとしても、一部紫色になってしまうなど非常にデリケートです。

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お分けする陶器のテーマ

今回お分けする陶器。焼き締めの色が残る名久井焼らしいマグカップとフリー
カップ。

名久井焼らしさのある
「青い森の自然派陶器」。

お分けする陶器は、どんなタイプですか?

大門さんマグカップとフリーカップの2種類を用意します。陶器のテーマは「青い森の自然派陶器」。青森だからこそできる、自然あふれる色使いをしたいと考えています。名久井焼らしい焼き締めの色を残しつつも、淡い緑色をしたマグカップです。
一方、フリーカップのほうは地元産の粘土のほか、今回はそれ以外の粘土を50%使います。鉄分の割合を増やし、焼き上がりが黒くなるようにします。

3種類の異なる粘土で作った器の底面。使う粘土が異なると
焼き上がりの色も異なる。

陶器を作る際に考えたことは?

ツヤを出したい一部に上薬を塗りますが、そこ以外は塗りません。ザラッとした青森の土の感じが分かるように素焼きの部分を残します。青森の土を使った名久井焼らしさと共に、少し変わった雰囲気を感じてもらえればと思っています。
私は、備前焼の人間国宝である山本 陶秀(やまもと とうしゅう)先生の下で学び、焼き物の作り方、販売の仕方も教わってきました。その経験をふまえ、デザインや機能性も根底から見直して砂庭大門らしさを出しているつもりです。

展示中のフリーカップ。名久井焼らしい手触りを残しつつ、機能
面でも使いやすさを追求している。

どんな使い方や、お手入れをすればいいですか?

コーヒーはもちろんですが、フリーカップならビールやジュースもいいですね。また、洗いやすさや衛生面も考慮し、釉薬上でのガラスコーティングを施しているので電子レンジに入れたり、食器洗い機などで洗っても構いません。様式美だけではなく、機能面でも便利な陶器づくりを考えています。

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皆様へのメッセージ

陶器に押される刻印は、大門さんの「門」をあしらったもの。

時代の変化に合わせた、
自由なスタイルを。

陶器とどんな付き合い方をしていけばいいですか?

大門さんマグカップ、フリーカップ共に、持ったときのザラッとした手触りを愉しんでもらったり、風合いの変化を感じてもらいたいですね。名久井焼の上薬はできるだけの自然の素材を使用しているので色が変わりやすく、コーヒーやお茶の渋が入るとツヤが増し、5~6年使うと陶器全体に照りが出てきて骨董的な味わい深い風合いとなってきます。

新しく考案した陶器のひとつである、漆を焼き付けたマグカップ。二戸市
の浄法寺漆(じょうぼうじうるし)を使用した作品。

皆様へのメッセージをお聞かせください。

窯元がお客様へ陶器を提供したときはまだ未完成ですが、愛着を持って使い続けることで「作品」として完成していくので、成長させて欲しいですね。ただ、漂白剤を使ってしまうと風合いがリセットされるので、そこは注意していただきたいポイントです。
名久井焼の作風としては、常に変化していこうと考えています。時代によって住宅形態や生活スタイルも変化するので、それに追いつくように新しい陶器を考案していきたいですね。

紐を編み込んだような陶器製のランプシェード。
綿密な計算のもとで製作された、非常に手間の
かかった作品。

新しい陶器、見てみたいですね。

見た目はもちろんですが、食器なら手になじむ要素も大事です。花瓶ならカッコいいフォルムだけではなく、花を楽に活けることができ、素敵に収まる。フリーカップなら持ちやすさや滑りにくさ、また、口に付けたときの感触も追求していきたいです。芸術肌であった父のDNAを受け継いでいるので、陶器のランプシェードや漆(うるし)を焼き付けた陶器など、他には無い独自性のある自由なスタイルを目指していこうと思います。

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器の販売は終了しました。ご支援いただき、ありがとうございました!

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